グレツキ:交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」 [交響曲]

昨晩というか、すでに今日であったが、テレーマン指揮ウィーン・フィルのベートーヴェンがテレビで放送されているのを観ながら、いろいろあって夜更かししてしまった。
それでも今朝は5時に目覚まし時計で起きて休日の早朝ウォーキングに行った。
もともとは6時に起きてウォーキングしていたが、この夏は朝から暑いので5時半起きに繰り上げた。それでもまだ暑いので今朝は5時に起きた。
起きたときは少し薄暗くて、睡眠不足にもかかわらず快調にハイペースで目的地の運動公園まで歩いた。
この「行き」の道すがら、そして公園のベンチで休憩中に、グレツキの交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」を聴いた。


ヘンリク・ミコワイ・グレツキ(1933-2010)はポーランドの作曲家である。
小学校の教員であったが、一念発起して音楽学校に入り直して作曲家になった。いっときはパリでも勉強し音楽学校の校長にまでなったが、80年代まで世界的には目立った作曲家ではなかった。
ラジカルな「前衛音楽」が一段落して、聴きやすい現代音楽が求められるようになってから、グレツキは脚光を浴びるようになった。

この交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」(1976)も、ここで紹介するディヴィッド・ジンマン指揮ロンドン・シンフォニエッタのCDが1992年に発売されるや、クラシックの現代音楽作品(矛盾した表現だが)としては異例の大ヒットになって有名になった。

ボクも10数年前に東梅田の東通り商店街のDISC・PIERの店頭の試聴コーナーで気に入って衝動買いしたCDである。




http://www.hmv.co.jp/product/detail/58897[
グレツキ:交響曲第3番作品36「悲歌のシンフォニー」
ディヴィッド・ジンマン指揮 ロンドン・シンフォニエッタ
ドーン・アップショウ(ソプラノ)]



3つの楽章すべてがLentoである。古典的な交響曲のようにAllegro-Adagio-(Menuetto/Scherzo)-Prestoであったり、多少ともその形式は踏んだ「急-緩-急」の構成ではなく、「緩-緩-緩」である。
現代音楽のことはよくわからないが、ミニマリズムとかホーリーミニマリズムと呼ばれるスタイルの代表的な楽曲といわれている。
ミニマリズムというのは最小の動きを繰り返すような表現方法で、ホーリーミニマリズムというと、そこに宗教的・神秘的な意味合いが付加されるそうだ。


第1楽章 LENTO-SOSTENUTO TRANQUILLO MA CANTABILE

コントラバスのほとんど聴こえないくらいの弱奏による24小節の短調の旋律で始まり、この旋律がカノン(いわゆる輪唱の形式)で徐々に、しかも緩やかに弦楽器主体で高音楽器に受け渡され、分厚い和声に発展しながら繰り返されクレッシェンドされて盛り上がっていく。
そのピークで「聖十字架修道院の哀歌」(息子を思う母親の祈りの歌)が劇的にソプラノ独唱される。
その後は逆に分厚い和声の強奏から元のコントラバスだけの旋律まで、徐々にデクレッシェンドしていく。
独唱をはさんだカノンの延々とした「繰り返し」に意識が薄らいでいくような、ラリってしまいそうな効果があるいっぽう、有名なバーバーの「弦楽のためのアダージォ」のようにストイックで悲痛な曲想である。


    第1楽章(1/3)
    ディヴィッド・ジンマン指揮 ロンドン・シンフォニエッタ
    ドーン・アップショウ(ソプラノ)


    第1楽章(2/3)


    第1楽章(3/3)


第2楽章 LENTO ELARGO-TRANQUILLISSIMO

陽光に揺らめいた波間のような短い長調の繰り返しの旋律の前奏の後で、暗いソプラノ独唱が始まる。
独唱が強く盛り上がった合間にも前奏と同じ明るい旋律が繰り返されるが、やがて暗い独唱で悲痛に終わる。
ナチス・ドイツに囚われた18歳の女性が独房の壁に書き残した祈りの言葉であるらしい。

  お母さま、どうか泣かないでください。
  天のいと清らかな女王さま、
  どうかいつもわたしをたすけてくださるよう。
  アヴェ・マリア
  (同CDの歌詞訳より WARNER MUSIC JAPAN INC.)


    第2楽章 
    ディヴィッド・ジンマン指揮 ロンドン・シンフォニエッタ
    ドーン・アップショウ(ソプラノ)


第3楽章 LENTO-CANTABILE-SEMPLICE

暗く揺らめく旋律が伴奏音形として繰り返される上に、悲しげなソプラノ独唱が重なる。
ここで歌われるのはポーランド民謡であるが、年老いた母親が失った息子を嘆き悲しみ、祈りを捧げる歌である。


    第3楽章(途中から) 
    アントニ・ヴィト指揮 ポーランド国立放送交響楽団
    ゾフィア・キラノヴィチ(ソプラノ)
    (ジンマン盤YouTube動画はこちら


交響曲第3番「悲歌のシンフォニー」は全楽章を通してゆったりとした「繰り返し」の穏やかなメロディーが基調になっているので、ヒーリングの曲としても愛されている。
また戦争や弾圧を背景にした「悲歌」を、強いインパクトで悲劇的に伝えるのではなく、気の遠くなるような穏やかさのなかで淡々と歌い上げているところに、じわじわっと伝わってくるような感動があると思う。


紹介CDおよびYouTube動画の第1/2楽章のジンマン盤は、ハーモニーを美しく聴かせる指揮者なので、ロンドン・シンフォニエッタの揺らいだ旋律の(不協和音も混じったような)響きが美しい。
アップショウの「歌い」過ぎない抑えた清楚なソプラノも美しい。

YouTube動画の第3楽章のヴィト盤はオーケストラがジンマン盤と比べると粗削りに聴こえる。キラノヴィチはちょっと声が太く、歌い過ぎているように思う。



≪追記 '10.11.20≫

作曲家ヘンリク・ミコワイ・グレツキ氏が11月12日に76歳で逝去。
シュリンパーさんの記事で初めて知りました。
合掌
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