「船に乗れ!Ⅰ ~合奏と協奏~」 [本]

3月に富士山のすそ野に出張に行ったときに宿泊先ホテルの近くのスーパーの書店で、何か軽い読み物が読みたいと思って文庫本コーナーを眺めているときに目に留まった本である。
出張先で大型書店で時間を潰せることもあるが、売れ筋しか置いてないような小さな書店でも意外と「出会い」があったりする。


船に乗れⅠ.jpg
藤谷 治 作「船に乗れ!Ⅰ~合奏と協奏~」


まず「ポプラ文庫」というのを知らなかった。ポプラ文庫というのは最近刊行されたみたいで、とくに「ポプラ文庫ピュアフル」というのは青春小説をメインにシリーズ化されているみたいで、ちょっと手に取るのが気恥ずかしかった。
この藤谷治という作家も「船に乗れ!」三部作も初めて知った。
この作家は音高でチェロ専攻だった人で、自らの音高時代の経験をもとに「青春小説」として書かれた小説である。

音楽的な家庭で育ちのいいちょっとクソ生意気なお坊ちゃん(主人公=津島サトル)が私立の高校音楽科に進学して...というあたりは、共感もしないし馴染めない。勝手にやってろや!という気持ちである。
でも、あまりレベルが高いとはいえない音高オーケストラのドタバタした練習風景や、憧れのヴァイオリン専攻の彼女と室内楽を組むところの期待や緊張感は、ボクのアマチュアとしてオケや室内楽の経験と重なって、読み進んでいるうちにのめり込んでしまった。
おとついの三原出張の新幹線のなかでⅠを読み終えて、「船に乗れ!Ⅱ~独奏~」に移った。きのうは医院の待合でも夢中になって読んでいた。

おそらくコミック・アニメ・ドラマ・映画の「のだめカンタービレ」が好きな方なら、楽しめる小説だと思う。


この手の音楽小説が楽しいのは、ストーリーや登場人物だけではなく、作中に絡んでくる名曲解説の魅力が大きい。

サトルの通う音高の学長でもある祖父がホームコンサートで弾くオルガン曲-バッハのコラールBWV605、615は、ボクのWALKMANにも入れていたので車中で聴きながら読んでいた。

サトルが初めて経験する音高オケの課題曲はチャイコフスキー「白鳥の湖」からの抜粋で、こちらはボクがあまりそそられる曲ではないが、指揮者やトレーナーに厳しくしごかれ、罵られながら本番を迎える流れが面白い。

そして、サトルが憧れの彼女と、ピアノの美人教師と組んだトリオで演奏するメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番・・・この曲に対する作者の思い入れの深さがにじみ出てくる。
ボクはロマン派の室内楽をあまり聴かなくて、この曲も知らなかったので、読んでいるだけではイメージできなかったが、あのヴァイオリン協奏曲や交響曲「イタリア」、歌曲「歌の翼」などメロディーメーカーと知られるメンデルスゾーンの甘美さを想像していた。
サトルが聴き込んでいたのはカザルス(チェロ)の「ホワイトハウスコンサート」ライブ盤LPであったが、YouTubeではカザルスがコルトー(ピアノ)、ティボー(ヴァイオリン)と組んだ演奏がアップされていた。
思ったほど旋律美の曲だとは思わないが、メンデルスゾーンらしく気品と内省的な情熱を感じさせる曲だと思った。


カザルス・トリオによるメンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番



第1楽章



第2楽章



第3楽章



第4楽章
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