桂 枝雀 「代書」「親子酒」 [落語]

1週間前に近所のビデオレンタル屋兼書店で



隔週刊CDつきマガジン『落語~昭和の名人・完結編』1 二代目 桂 枝雀(壱)(小学館)

を第1回配本は490円と安かったので買った。
第2回配本以降は定価が1,190円に上がるし東京落語はあまりそそられないので、今後も枝雀、文枝、春團治など上方落語の巻だけ買おうと思っている。

第1回配本では『代書』『親子酒』の噺(はなし)がCDに収録されいる。
『代書』は先週の日曜日に1駅先の駅前のスーパー銭湯まで徒歩約3.5キロの道すがら、旧街道の街並みを通りながら聴いた。
今朝のウォーキングの帰りには『親子酒』を聴きながら歩いた。

『代書』は文字の書けない男が代書屋で就職のための履歴書を書いてもらうときのやりとりのボケ・ツッコミが可笑しい噺である。
『親子酒』は酒グセの悪い父親と息子を各々対称的に描いて、ラストで対面させるときのオチが面白かった。


故桂枝雀はボクが高校生の頃、TV番組『枝雀寄席』などでクラスメイトの間でもブームであった。
当時は同級生といっしょに朝日放送の『枝雀寄席』の公開収録に行って生で見聞きしてきたこともあった。
桂枝雀当人はとても知性的な落語家であったが、起伏・緩急に富み、オーバーアクションなどダイナミックにコントロールされた明快な落語で、まだ落語初心者だったボクも強く惹きつけられてテレビに釘付けになっていたものだ。
深くハマることはなかったが、落語を好きになるキッカケになった落語家で、その後は何回か米朝独演会に足を運んだ。

正直言って音だけで聴く枝雀落語も面白いのであるが、イマイチ物足りないものがある。はなしの間合いに起こる客席の爆笑の渦についていけないのだ。
枝雀の身振り手振りなり、顔芸なりを想像するしかない。
それでもウォークマンで聴く噺にクスクスしながら歩いている自分は、人から見るとさぞ変人に映るだろうなと思った。





桂枝雀『代書屋』
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映画「僕と妻の1778の物語」 [映画]

この3連休にウチでゴロゴロしているのももったいないし1日くらいはレジャーらしいことがしたい、妻に日帰り温泉にでも行こうかと誘ってみたのであるが、妻は寒い時期に温泉には行きたくないというので、久しぶりに映画を観に行こうかということになった。

とくに映画館に観に行きたい映画があったわけでもないが、「僕と妻の1778の物語」は竹内結子さんがちょっと気になっていたことと、数日前にテレビでこの映画のCMを見たのが心に残っていたので、この映画にした。

中1の息子も誘ってみたが、こういう映画は苦手だというので、妻と二人で観に行った。


車で大型ショッピングセンターに行って、そのなかのワーナーマイカルシネマでチケットを買ってから、書店で時間をつぶしたりベーカリーカフェで昼食を食べたりしてから、上映時間になった。

ポップコーンとウーロン茶を買ってから、ガラ空きの指定席に座った。


映画のほうは結末がわかっているし起伏に富んだストーリーでもないが、お涙頂戴になりそうなところを淡々とユーモラスに描いていて、感動というほど強いものはなかったが心に残るものがあった。

だんだんと弱っていく妻 節子を演じる竹内結子さんが美しく、彼女を支えているようで実は彼女に支えられている夫 朔太郎の姿もけなげであった。
ドラマの「僕の生きる道」シリーズも好んで観ていたが、朔太郎を演じる草彅剛さんは本作でも飄々とした味を出していた。
SF作家の朔太郎が毎日妻に書き続けるショートショートの、ロボット、宇宙船、宇宙人などファンタジックなシーンをところどころに挿入しているのが楽しい。

ボクはどうしても節子に自分の妻を重ねてしまう。もし妻がボクよりも先に余命いくらなどと宣告されたら、自分には何ができるだろうかと思った。
ボクは朔太郎のように毎日妻にショートショートを書いて笑わせることなどできないが、ときには寒いギャグや下ネタを飛ばして妻に「受け」狙いしている。そんな心情で朔太郎に感情移入していた。

レギュラーサイズのポップコーンが多過ぎて妻は少ししか食べなかったので、ボクはガツガツ食べながら観ていた。妻は泣くほどの映画ではなかったと言っていたが、登場人物や後ろの客のすすり泣きにつられて泣いていた。
ボクはそんな妻の手をギュッと握った。

ボクは妻の存在を今は当たり前のように思っていたが、この映画を観て妻と一緒に生きていられる幸せを実感した。
ボクの勝手な思いだろうが、妻には先立たれたくない。


「僕と妻の1778の物語」予告篇
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My Funny Valentine [ミュージカル]

かつて毎年この時期になると憂鬱であった。

ボクは社交的なほうではないし孤立していたことが多いので、もちろん女子から相手にされることがなくバレンタインデーは寂しいものであった。

高校生になってもボクには彼女はできなかったが、友人どうしで悪ふざけして、いかにもモテないヤツのクツ箱に女の子からのプレゼントに見せかけてバレンタインチョコレートを忍ばせた。
その同級生がニヤニヤしている様子を見て冷やかしたりして、ボクも仲間うちでほくそ笑んでいた。それこそfunnyなバレンタインだったが、彼に劣らずモテないボクは内心はとても寂しい気持ちだった。

その後も妻と出会うまでは毎年バレンタインデーの頃は憂鬱であった。
ひがみもあったが、何よりもこの期間はボクの大好きなチョコレートを男が自分で買いに行くのが屈辱的なことに思えて、こんな習慣をつくった日本の菓子メーカーを恨めしく思ったものだ。

それでも職場の義理チョコと保険の外交員のおばさんのサービスのチョコくらいはもらった。息子を可哀相に思ったのか母がくれたこともあった。
その後、女子社員は申し合わせて義理チョコを自粛し、保険会社もケチになってチョコをくれなくなった。

結婚後は妻が焼いてくれる「本チョコ」のチョコケーキが心の支えになっている。といっても今はボクだけではなく息子にも向けられたプレゼントである。
でもボクにも男のプライドがあって、ボクのほうから妻に「ちょうだい」とは言えない。

*      *      *


バレンタインデーというのはキリスト教司祭の聖ウァレンティヌス(=バレンタイン)が殉教した命日にちなんだといわれ、血塗られた謂れ(いわれ)があるようだ。
ローマ皇帝がローマ軍の兵士が出征したがらなくならないように、結婚や婚約を禁止していた。これに背いて聖ウァレンティヌスは、恋人たちをひそかに結婚させていたという罪で処刑された。
それ以来、恋人たちの守護聖人として信仰されてきたということらしい。

バレンタインデーに因んだ血生臭いエピソードとしては「聖バレンタインデーの虐殺」も有名である。
禁酒法時代のギャングの帝王アル・カポネが、警官に扮装させた殺し屋をガサ入れを装って敵のマフィアに差し向け、敵のアジトで数名を虐殺した事件で、TVドラマ「アンタッチャブル」やギャング映画では有名なシーンである。

*      *      *


そのようなバレンタインデーは好ましく思えないが、ジャズのスタンダードナンバー『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』"My Funny Valentine"だけはとてもいい曲だと思う。

作曲したリチャード・ロジャース(1902-1979)は、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』(1959)、『王様と私』(1951)、『南太平洋』(1949)、『オクラホマ』(1943)の作曲家として有名である。
「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は作詞家ローレンツ・ハート(1895-1943)と組んだミュージカル『ベイブス・イン・アームス』のナンバーで、ミュージカルそのものは有名ではないが、トニー・ベネットやフランク・シナトラのカバーでヒットして名曲になった。インストゥルメンタルではマイルス・デイビスもカバーした。


MY FUNNY VALENTINE
(music: Richard Rodgers, lyrics: Lorenz Hart)

(verse)

Behold the way our fine feathered friend
His virtue doth parade
Thou knowest not my dim witted friend
The picture Thou hast made
Thy vacant brow and Thy tousled hair
Conceal Thy good intent
Thou noble upright, truthful, sincere
And slightly dopey gent


(refrain)

You're my funny Valentine
Sweet comic Valentine
You make me smile with my heart
Your looks are laughable
Unphotographable
Yet you're my favorite work of art
Is your figure less than Greek
Is your mouth a little weak
When you open it to speak
Are you smart?
But don't change a hair for me
Not if you care for me
Stay little Valentine stay
Each day is Valentine's day!



この歌詞を自分なりに訳そうかと思ったが、英語の苦手なボクにはとくにverseの部分は格調高く古典英語も使っているそうで、慣用句などわからないので諦めた。
Yahoo翻訳、Excite翻訳など試みてもfunnyな訳になって、わけがわからなくなるばっかりなので、他の方のサイト

YouTube動画で覚えよう英語の歌  ゆうこ さん
My Funny Valentine 私のへんてこ…  かおりん・うさこ さん  

の訳などを参照されたい。


要するに女子が男子に宛てたラブ・ソングであるが、男子の名前がバルとかいって、それとバレンタインをかけていること。その男子のことをブサイクだ、こっけいだとこき下ろしながらも彼への想いを打ち明けている。

*      *      *


お気に入りのCDは前回の「オーヴェルーニュの歌」に続いて、フリッカ(=フレデリカ・フォン・シュターデ)のソプラノである。
フリッカの最盛期はカラヤン、バーンスタイン、小澤、アバド、プレヴィンなど有名指揮者から引っ張りだこであった。その反動からか最盛期を過ぎた頃に、もともと彼女の憧れであったミュージカルやポップスのナンバーも歌うようになった。

この頃のCDには

「サウンド・オブ・ミュージック」
「ショウ・ボート」

などミュージカル全曲録音がすばらしい。フリッカならではの清楚・チャーミングな歌唱で聴かせる。

"MY FUNNY VALENTINE"「マイ・ファニー・ヴァレンタイン~ロジャース&ハートを歌う」と題されたアルバムはロジャース&ハートのミュージカルから名曲を選りすぐったものである。
ジョン・マッグリン指揮ロンドン交響楽団のシンフォニックでときにはジャズっぽいオーケストレーションのなかで、オペラティックであったりミュージカル調の歌唱で、ゴージャスに聴かせている。彼女独特の中高音の優しく柔らかな声質も心地よい。

バラード調の曲は情感豊かな歌唱のなかで、ときどき聴かせる「笑い」がすばらしい。例えば"My Funny Valentine"はマイナーなしみじみとした曲調のなかにみせるfunnyな味わいが魅力的である。歌詞の"Is your mouth a little weak"の部分の"a little"の歌い方がとてもチャーミングでウルッとくる。
"Atlantic Blues"などの軽快なナンバーはとても明るく愛くるしい。YouTubeではこの"MY FUNNY VALENTINE"1曲だけがアップされていたが、他にもすばらしい歌唱が聴ける。



マイ・ファニー・ヴァレンタイン~ロジャース&ハートを歌う
 フレデリカ・フォン・シュターデ(メゾ・ソプラノ)
 ロンドン交響楽団
 ジョン・マッグリン(指揮)

1. My Funny Valentine
2. I Must Love You
3. I Didn't Know What Time It Was
4. Moon of My Delight
5. Ev'rybody Loves You
6. Ship Without a Sail
7. Quiet Night
8. To Keep My Love Alive
9. Love Never Went to College
10. You're Nearer
11. If I Were You
12. Bewitched,Bothered and Bewildered
13. Now That I Know You
14. Bye and Bye
15. Atlantic Blues
16. Where or When
17. Falling in Love With Love



他にもフリッカがよりポップス調で軽く歌ったアルバム"Flicka"もボクの愛聴盤である。
こちらはオペラっぽさをまったく感じさせない自然な発声で歌われているが、優しく柔らかい声にさわやかなお色気も加わって、とてもスウィートなヴォーカルである。聴いてもらえるサンプルがないのが残念である。



Flicka - Another Side Of Frederica Von Stade

1. I Like To Recognize The Tune
2. Spring Is Here
3. Play Me Your Light
4. Lullaby
5. I Could Write A Book
6. He Is My Man
7. Once Again
8. The More I See You
9. Wait 'Til You See Him
10. That's All
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引越し準備中です [PLAYLOG関係]

はじめまして、松本ポン太といいます。
生活ネタは「プレコの日記」、趣味の音楽ネタをPLAYLOG「松本ポン太のCDラック」に書いています。
このたびPLAYLOGのサービス終了にともない音楽ネタのほうはこちらに引越し準備中です。
2011年3月末のPLAYLOG投稿終了までにボチボチ引越ししていきます。
So-netブログはまだ右も左もわからないことだらけですがよろしくお願いします。
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カントルーブ:歌曲集「オーヴェルニュの歌」 [声楽曲]

ボクがクラシック音楽にのめり込み始めた頃、CBSソニーのクラシックLPのカタログがちょっとした小冊子になっていて、バーンスタイン、ブーレーズ、セル、ワルターなど有名なアーティスト別にページを割いていて、クラシック音楽入門用に当時は「座右の書」みたいに眺めていた。
そんななかでアイドルっぽく取り上げられていた若手美人女性メゾソプラノ歌手フレデリカ・フォン・シュターデのページが魅力的で、ルックスの美しさに目を奪われていた。

そうしてジャケ買いしたLPの1枚がカントルーブの歌曲集「オーヴェルニュの歌」第1集である。
ジャケットの美しさもさることながら、このLPの歌と演奏の美しさに圧倒されてしまった。
それ以来、フレデリカ・フォン・シュターデの虜(とりこ)である。

シュターデのことは以前にも

  ・フォーレ歌曲全集チクルス
  ・ドビュッシー歌曲全集チクルス
  ・フンパーディング:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」
  ・マスネ:歌劇「ウェルテル」
  ・ドビュッシー:歌劇「ペレアスとメリザンド」
  ・Merry Christmas!

の記事で取り上げてきた。

シュターデはフランス音楽やズボン役(ヘンゼルや「フィガロの結婚」のケルビーノなどの少年役)などに定評があるが、とりわけ歌曲集「オーヴェルニュの歌」は十八番と言える曲のようで、ライヴ盤でも「バイレロ」は歌われている。

ボクはシュターデの最盛期に来日リサイタルに行くことができて、そのときはフォーレやマーラーとともにカントルーブの歌曲も歌っていた。
当時のシュターデはオペラ歌手がこんなに痩せていて大丈夫だろうかと思うほどスタイルがよく美しい人であったが、東京文化会館、昭和女子大学人見記念講堂の2公演ともに大ホールが優しく柔らかな歌声で満たされていた思い出がある。

*        *        *


ジョゼフ・カントルーブ(Joseph Canteloube, 1879-1957)はフランス中南部のオーヴェルニュ地方出身の作曲家で、同じくフランスの作曲家ヴァンサン・ダンディ(1851–1931)に師事していた。
カントルーブの作品は演奏される機会は少ないが、フランス各地の民謡の採譜・編曲を手がけた作品が評価されている。
「オーヴェルニュの歌」は代表作として録音が少なくない。

歌曲集「オーヴェルニュの歌」は、オーヴェルニュ地方の山岳部の険しい自然のなかで伝承されてきた農民たちの素朴な民謡をカントルーブが採譜して、華やかな管弦楽伴奏をつけた作品である。
1924年から1955年の間で、5巻全27曲にわたってまとめらている。

曲のタイトルだけみても、山岳地方の羊飼いたちの素朴な生活感が伝わってきそうである。

「オーヴェルニュの歌」

1. 羊飼いのおとめ
2. オイ・アヤイ
3. むこうの谷間に
4. 羊飼い娘よ,もしお前が愛してくれたら
5. 一人のきれいな羊飼い娘
6. カッコウ
7. ミラベルの橋のほとりで
8. チュ・チュ
9. 牧歌
10. 紡ぎ女
11. 捨てられた女
12. お行き,犬よ
13. 牧場を通っておいで
14. せむし
15. こもり歌
16. バイレロ
17. 3つのブーレ
  (泉の水/どこへ羊を放そうか/あちらのリムーザンに)
18. アントゥエノ
19. 羊飼いのおとめと若旦那
20. 2つのブーレ(わたしに恋人はいない/うずら)
21. 女房持ちはかわいそう
22. 子供をあやす歌
23. わたしが小さかったころ
24. むこう,岩山の上で
25. おお,ロバにまぐさをおやり
26. みんながよく言ったもの
27. 野原の羊飼いのおとめ


歌詞はオック語とよばれる古い南仏語で歌われている。
最も有名な「バイレロ」は高地の羊飼いの歌で、次のような歌詞である。言葉はわからないが、聴いていると雄大な自然を彷彿した曲想のなかでのびのびと朗唱される言葉が美しい。

Baïlèro


Pastré, dè dèlaï l’aïlo,
a gaïré dé boun tèn,
dio lou baïlèro lèro...
È n’aï pas gaïré, è dio, tu, baïlèro lèrô

Pastré, lou prat faï flour,
lical gorda toun toupèl,
dio lou baïlèro lèro...
L’èrb’ès pu fin’ol prat d’oïci,
baïlèro lèro...

Pastré, couci foraï,
èn obal io lou bèl rîou,
dio lou baïlèro lèro...
Espèromè, té baô circa, baïlèro lèro...


歌詞対訳
(CBSソニー「オーヴェルニュの歌」第1集 28AC1653、鈴木松子訳より引用)

バイレロ


川の向う側で、牧人よ
あんたは、バイレロ レロを歌っているが
ほとんど楽しい時がない
いや 私も そしてお前さんも バイレロを歌っても楽しくない

羊飼いよ 牧場は花盛りだ
お前さんは こちら側からお前さんの羊の群れを見守っている
バイレロを歌いながら・・・
今、牧場の緑は いよいよ冴えて来る
バイレロ・・・・・・

羊飼いよ 小川の水は溢れて来て
私は渡ることが出来ない
バイレロを歌っても・・・・・・・・
そこで私は探しに下ってゆこう バイレロ・・・・・・・


*        *        *


シュターデのLP(第1集)はその後CDも手に入れたが、第2集が発売されるまで5年ほどかかったと思う。

シュターデ盤の発売と同時期に、シュターデの友人でありライバルでもあったソプラノ歌手キリ・テ・カナワも「オーヴェルニュの歌」を出していた。
当時「レコード芸術」誌上で吉田秀和氏が両者の「オーヴェルニュの歌」を比較して、カナワ盤が純音楽的・歌曲的であるのに対して、シュターデ盤は演劇的(歌劇的)であるというような評価で、シュターデ盤のほうに軍配を上げていた。

ボクはカナワの声質が好きになれないので、もちろんシュターデ盤で満足していたが、その後、グレツキ「悲歌のシンフォニー」を歌っていたドーン・アップショウの澄んだソプラノも気に入って、アップショウ盤も購入した。

ある意味、アップショウ盤がシュターデ盤に対して純音楽的・歌曲的なアプローチであるように思った。
ボクはこの二種類を愛聴している。


(1)フレデリカ・フォン・シュターデ(メゾソプラノ)  アントニオ・デ・アルメイダ指揮 ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団]
第1集


第2集

(2)ドーン・アップショウ(ソプラノ)  ケント・ナガノ指揮 リヨン国立歌劇場管弦楽団


シュターデの声は「琥珀色のラブリーボイス」と言われているだけあって、クリーミーというか綿菓子のようにふわっと柔らかで、やや太めの声質である。
アップショウは透明感があって軽く細めで、粘り気のある声質である。
声の軽いアップショウのほうがテヌート気味に重たく歌っているのに対して、声の重いシュターデのほうが緩急をつけたテンポでスタッカート気味に軽く歌っているのが、対照的である。

シュターデは歌のなかに笑いや泣きの表情付けをするのが得意で、トゥルルルルルル・・・とタンギングするような箇所を強調するなど、豊かな表現をしている。YouTubeの「バイレロ」に見られるように、ダイナミックレンジの広い歌唱であるが、ff(フォルテッシモ)では嫌味にならず、pp(ピアニッシモ)の抜いた発声も絶品である。若々しい色香も感じられる。

アップショウは透明感ある声は美しく、声の安定感は抜群である。几帳面にていねいに仕上げている。優しい「母性」や女性らしい魅力が感じられる。

オーケストラ伴奏は、アップショウ/ナガノ盤が録音がよく透明感があるが、シュターデ/アルメイダ盤のほうがスケール感・色彩感が豊かなので、あくまでもボクにとってはシュターデ盤が最高の演奏である。

この曲は全曲初録音したウクライナ出身ソプラノのネタニア・ダブラツ盤がスタンダードとして定着している。ボクはYouTubeで聴いてみたが、シュターデやアップショウほどには洗練されておらず、むしろ民族的な素朴な味わいが濃厚だと思った。「巻き」が強くややオバ臭い(あるいは田舎臭い)のでボクの好みではない。「バイレロ」は一本調子で途中で厭きてしまう。

カナワはところどころ音程の上ずっているところが気になる。一般的には好まれるソプラノであるのだろうが、しつこく歌い過ぎだと思う。
 
他にサラ・ブライトマン盤もあったが、ソプラノ歌唱を意識しすぎてかブライトマンらしい美質を活かしてないように思う。この人は軽く抜いたようなソプラノに魅力があるのであるが、ライブで力み過ぎているようだ。



フレデリカ・フォン・シュターデ(メゾソプラノ)
アントニオ・デ・アルメイダ指揮 ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団
「バイレロ」


ドーン・アップショウ(ソプラノ)
ケント・ナガノ指揮リヨン国立歌劇場管弦楽団
「羊飼いのおとめ」「女房もちはかわいそう」「こもり歌」


ネタニア・ダブラツ(ソプラノ)/ピエール・ドゥ・ラ・ロシュ指揮
「バイレロ」


キリ・テ・カナワ(ソプラノ)
ジェフリー・テイト指揮 イギリス室内管弦楽団
「バイレロ」


サラ・ブライトマン(ソプラノ)
「バイレロ」
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モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」 [協奏曲]

息子が5歳でヴァイオリン教室に通い始めて、最初の数ヶ月はボクが自分で教えるつもりで買った幼児向けのヴァイオリン教本を使っていたが、ほどなく「鈴木バイオリン指導曲集」を中心として、「篠崎バイオリン教本1」や「カイザー ヴァイオリン練習曲1~3」を副教材に使うようになった。
「鈴木バイオリン指導曲集」は1年に1巻ずつくらいのペースで進んでいった。中1になって今年の12月で8巻最後の曲・・・ベラチーニ「コンチェルト ソナタ」が完了した。
そして12月に入ってから9巻である。8巻までは徐々に難度を上げながら有名なピースを曲集としてまとめたエチュードであった。

それが9巻になると、いきなりモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番 K.219「トルコ風」全3楽章(ヨアヒムのカデンツァ付き)である。

先生とボクは「とうとうモーツァルトまで来ましたね」と感慨深く話し合っていた。
先生は「○○クン、○○高校音楽科に入れるんちゃいますか」とも勧められたが、もちろん息子本人もボクもその気はないし(とくに才能もやる気もあるように思えないし...)、音高-音大コースは経済的にもたいへんであるから、手堅く理工系あたりでふつうに進んでくれたらいいと思っている。

来年5月のヴァイオリン教室の発表会の課題曲は、このコンチェルトの第1楽章に決まった。


鈴木バイオリン指導曲集 第9巻(全音楽譜出版社)

         
*          *          *


ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)のヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリンソロ1本のもの)は7曲残っているが、うち第6番、第7番は偽作とされ、第1番~第5番の5曲がモーツァルトの作品として一般的に知られている。

5曲のヴァイオリン協奏曲はいずれも1775年(モーツァルト19歳のとき)の作品で、どれも遜色ない作品だと思う。

第3番、第4番、第5番の3曲がよく演奏され、とくに第5番は第3楽章が、当時流行していたといわれるトルコ風のメロディーの部分を含んでいるので「トルコ風」"Turkish"と呼ばれて親しまれている。この部分はコル・レーニョ"col legno"といって、チェロ・コントラバスのパートが弓の棒の部分で弦をバシバシ叩いて打楽器のような効果をあげていて、トルコ軍の行進の太鼓の音のようにも鞭打つ音のようにも聴こえる。

         
*          *          *


モーツァルトは最も好きな作曲家の一人なので、この曲もCDは4枚持っている。

(1)フランツ・ペーター・ツィンマーマン(ヴァイオリン)   イェルク・フェルバー指揮   ハイルブロン・ヴュルテンベルク室内管弦楽団


(2)ジャン=ジャック・カントロフ(ヴァイオリン)   レオポルド・ハーガー指揮   オランダ室内管弦楽団


(3)アルテュール・グリュミオー(ヴァイオリン)   サー・コリン・デイヴィス指揮   ロンドン交響楽団


(4)ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)   ニコラウス・アーノンクール指揮   ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団


他に「クラシックmp3無料ダウンロード著作権切れ歴史的録音フリー素材の視聴、試聴」サイトから

(5)ジャック・ティボー(ヴァイオリン)   シャルル・ミュンシュ指揮   パリ音楽院管弦楽団

(6)ヤッシャ・ハイフェッツ(ヴァイオリン)   ジョン・バルビローリ指揮   ロンドン・フィルハーモニック

を聴き比べてみた。

ボクは優柔不断なので、どの演奏も聴いているときは魅力的に感じられて、優劣や好き嫌いを判断するのが難しい。しかし、ウォークマンのプレイリストに入れて立て続けに聴いていると、個性の違いがよくわかった。

(1)ドイツの今は中堅ヴァイオリニストのツィンマーマンが若かりし頃に録音したこの曲は清々しく、几帳面に弾いている。
音は細くも太くもなく、中庸といったところであろうか。
ヨアヒムのカデンツァを省略なしで弾いていて、聴いたなかでは最もスタンダードな演奏である。
難を言えば、バックのオーケストラ演奏がぶっきらぼうな感じで美しく感じられないことであろうか。

(2)カントロフはこのなかではボクが実演で接した唯一のヴァイオリニストである。音は線は細いがスタイリッシュで筋肉質な演奏が魅力である。
このCDではバックのオーケストラは最も美しく効果的にソロを盛り立てていると思った。
ヨアヒムのカデンツァを若干省略しているところがある。
第3楽章「トルコ風」のところは、低弦のコル・レーニョをビシバシ叩いていて、ソロは畳み掛けるようなテンポでスリリングである。

(3)グリュミオーは太めのねっとりした美音で流麗に色っぽく弾いている。
ヨアヒムのカデンツァをかなり省略したり、変えたりしている。
大編成?のオケがちょっと重たく感じられるのが残念であるが、一昔前のスタンダードと思う。

(4)クレーメルとアーノンクール/ウィーンフィルの演奏はたいへん個性的で面白いが、スタンダードからはかけ離れている。
装飾音符の弾き方などソロもオケもふつうとは違うし、ウィーンフィルの美しい響きをわざとゴツゴツしたアーティキュレーションで演奏させている。
クレーメルは変幻自在で剃刀のような鋭い切れ味の演奏である。
カデンツァはレビン作、ヨアヒムに慣れた耳にも違和感はない。

(5)ティボーは録音が悪くて音が痩せて聴こえるが、ティボー節ともいえるポルタメントや細かいビブラートに暖かい人柄を感じる。まったりとした柔らかな音楽である。

(6)ハイフェッツのは意外と録音が良好。現在ではあり得ないほどロマンティックに緩急をつけているが、どこか冷ややかに計算された演奏に感じられる。


YouTubeでは有名曲だけにたくさんあるが、まずはボクの好きなティボー。


ティボー/ミンシュによる第1楽章


アンネ・ゾフィー・ムターの弾き振りによる協奏曲全集の演奏はCD、DVDでも話題になっていたし、NHK-BSでも放映されてちゃんと録画を残している。YouTubeでは音質・画質が劣化しているのが残念である。
どうしてもセクシーなルックスに見とれてしまうが、演奏そのものは濃厚というか男勝りで野太い。とくに第2楽章などは聴いていてゾクゾクするくらいに官能的である。


ムター弾き振りによる第1楽章


ムター弾き振りによる第2楽章(その1)


ムター弾き振りによる第2楽章(その2)


ムター弾き振りによる第3楽章

         
*          *          *


≪練習日誌≫

ボク自身はというと「新しいバイオリン教本」を何巻かやった後、ヘンデルのソナタをやって、次にモーツァルトのソナタをやろうとしたときにレッスンを止めてしまっていた。
その後は、自主的にバッハの無伴奏の一部の曲を練習した以外には、オケの曲ばかり練習していて、オケの曲の中で飛ばし弓や発音のテクニックをそれなりに磨いてきた。
だからヴィヴァルディ・バッハなどのバロックコンチェルト以外には、コンチェルトをちゃんとモノにするような練習をやってこなかった。

息子がモーツァルトを練習する機会を活かして、ボク自身もこの曲を練習してみたいと思った。
先週の日曜日は、ちょっとだけ第1楽章の最初のほうを弾いてみた。
ポジションを意識し過ぎないで、ハイポジションの音に「当たり」をつけて音程をとるところなど難しいが、何度かチェレンジするとそれなりに音をとれるようになった。

息子が四苦八苦して練習するのを聴いていると、まだ負けてないなぁと思った。


第1楽章のソロ出だし

第1楽章のソロは「ラ・ド・ミ」の音階で始まる。この単純な3度ずつの上昇は、いろんなヴァイオリニストが渾身の音色で弾き始めるところだ。
ボクも自分なりに精一杯きれいなビブラートをかけて、ゆったりとした音色を出せるよう試してみた。
息子はまだ棒読みのような弾き方しかできていない。
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Merry Christmas ! [声楽曲]

フリッカ (フレデリカ・フォン・シュターデ=メゾソプラノ) の出演しているクリスマスコンサートの動画がいくつかあった。

プレヴィン、マサカリス、バトルと共演したカーネギーホールのクリスマスコンサートのLDはよく観ていたが、LDプレーヤーが壊れてからは観られないままである。
YouTubeでその一部を観ることができて懐かしい。


共演:ウィントン・マサカリス(トランペット)
    キャスリン・バトル(ソプラノ)
    アンドレ・プレヴィン(ピアノ)


共演:ジェームス・ゴールウェイ(フルート)
    ウィーン少年合唱団


共演:ブリン・ターフェル(バス・バリトン)
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モーツァルト:ディヴェルティメントK.563 [室内楽]

卒業後もしばらくの間、オーケストラ部の顧問だった教授宅に月に1度、仲間うちで集まって、室内楽に興じていた時期があった。

その先生はヴァイオリン、ヴィオラ、ピアノを弾いておられて、みんなで弦楽四重奏や五重奏、弦楽合奏曲やピアノ・クラリネット・オーボエ・ファゴットをソロに迎えた四重奏や五重奏、セプテット、オクテットなどいろいろと遊び弾きしていた。というか次から次へと先生が楽譜を出してきては初見弾きさせられていた。
ときにはボクのヴァイオリンソロを先生がピアノ伴奏してくださったこともあって、楽しい思い出である。

ベートーヴェンの初期カルテットやブラームスのクインテットなど、初見でなくても難しい曲も弾かされるので、ひいひい言いながらワケもわからずに食らいついていた。
そんな経験で少しばかりは初見力がついていたような時期もあった。

ボクはその室内楽の集まりで、弾いていていちばん心地よかったのはモーツァルトであった。
この頃からモーツァルトが好きになり始めた。

そのモーツァルトの室内楽曲のなかでも、カッチリとした格調高い弦楽四重奏曲と違って、珠玉の一品とでもいうような曲が「ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのためのディヴェルティメント変ホ長調K.563」である。

この曲のヴァイオリンパートは、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲並みの難易度であって、当時のボクが初見弾きするには難しすぎた。
先生とボクでいっしょにヴァイオリンパートを重ねて弾いて、ボクはところどころ弾けない箇所は先生に任せてパスしていた。

あまり聴き馴染みのない曲を弾くのは辛かったから、次はもう少しわかるようになろうと思って、パスキエ・トリオのLPを聴いていた。

             
*     *     *


ディヴェルティメントK.563はヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)が1788年に作曲した。1788年といえば後期3大交響曲ともよばれる

   交響曲第39番 変ホ長調 K.543
   交響曲第40番 ト短調 K.550
   交響曲第41番 ハ長調 K.551『ジュピター』

も作曲された年だけあって、弦楽三重奏とはいえ、これらの大作に引けをとらない充実した作品である。しかもモーツァルトらしい「可愛らしさ」や典雅な魅力に満ちあふれている。

ディヴェルティメントは「嬉遊曲」と訳されるように、明るく軽妙で楽しい曲想で、貴族の娯楽の場などで演奏されるような器楽組曲である。
モーツァルトは20曲ほどもディヴェルティメントを作曲しているが、K.563はその最後の作品である。全6楽章で構成されている。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの3本が楽しく対話をしているような曲である。

             
*     *     *


ボクの持っている音源は、パスキエ・トリオのLP(これはパソコンにAD変換・録音してウォークマンで聴いている)、グリュミオー・トリオやアマデウス弦楽四重奏団のCDである。



モーツァルト:ディヴェルティメントK.563 パスキエ・トリオ

パスキエ・トリオは3人兄弟で弾いているだけあって、音楽が暖かく自然に流れている。3人の息遣いが聴こえてきそうで、ボクがいちばん気に入っている演奏である。



モーツァルト:ディヴェルティメントK.563 グリュミオー・トリオ

グリュミオー・トリオはヴァイオリンの大家を中心にした演奏だけあって、コンチェルトみたいにソリスティックで流麗な演奏である。ヴィオラ・チェロもちょっと控えめにグリュミオーを支えている。



モーツァルト:ディヴェルティメントK.563 アマデウス弦楽四重奏団

アマデウス弦楽四重奏団の演奏は、良くも悪くも第1ヴァイオリンのブレイニンの個性が強く反映されている。
晩年近くのアマデウス弦楽四重奏団は、昭和女子大学人見記念講堂のコンサートでベートーヴェンを聴いたことがあったが、鮮烈な演奏だった。この曲でも音のアクセントが強烈で艶やかな音色を響かせている。かなり辛口なモーツァルトである。


YouTubeではパスキエトリオとグリュミオートリオの第1楽章の音源があった。


パスキエ・トリオ 第1楽章 Allegro


グリュミオー・トリオ 第1楽章 Allegro
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シューマン:歌曲集「詩人の恋」 [声楽曲]

今年はショパンイヤー、シューマンイヤー(ともに生誕200年)、マーラーイヤー(生誕150年)と言われている。ボクはショパンにはあまり関心はないが、シューマンは多くは聴かないものの歌曲集「詩人の恋」は好んで聴いているので、シューマンイヤーにあやかって取り上げてみる。


ロベルト・シューマン(1810~1856)はピアノ曲ばかり作曲していたが、1840年に歌曲の作曲に集中し、さらに翌年から交響曲の作曲に移っていったといわれる。その「歌曲の年」に、シューマンがハインリヒ・ハイネ(1797~1856)の詩の中から16篇を選んで「詩人の恋」と名づけた歌曲集を作った。

  歌曲集「詩人の恋」作品48 "Dichterliebe"

   第1曲 「美しい5月」
        "Im wunderschönen Monat Mai"
   第2曲 「わたしの涙から」
        "Aus meinen Tränen sprießen"
   第3曲 「ばらに、ゆりに、はとに」
        "Der Rose, die Lilie, die Taube, die Sonne"
   第4曲 「あなたのひとみを見つめるとき」
        "Wenn ich in deine Augen seh' "
   第5曲 「わたしの心をゆりのうてなに」
        "Ich will meine Seele tauchen"
   第6曲 「神聖なラインの流れに」
        "Im Rhein, im heiligen Strome"
   第7曲 「わたしは嘆くまい」
        "Ich grolle nicht"
   第8曲 「花が知ったなら」
        "Und wüßten's die Blumen, die kleinen "
   第9曲 「鳴るのはフルートとヴァイオリン」
        "Das ist ein Flöten und Geigen"
   第10曲 「恋人の歌を聞くとき」
        "Hör' ich das Liedchen klingen"
   第11曲 「若者はおとめを愛し」
        "Ein Jüngling liebt ein Mädchen"
   第12曲 「明るい夏の朝」
        "Am leuchtenden Sommermorgen"
   第13曲 「夢の中で私は泣いた」
        "Ich hab' im Traum geweinet"
   第14曲 「夜ごとの夢に」
        "Allnächtlich im Traume"
   第15曲 「昔話の中から」
        "Aus alten Märchen winkt es"
   第16曲 「いまわしい思い出の歌」
        "Die alten, bösen Lieder"


全16曲を通して1つの物語のようになっている。

主人公の詩人に、5月になってつぼみが開きはじめるのに合わせるように恋が始まる。
彼女への愛に酔い、高揚する気持ち。
しかし、やがて彼女は別の男と結婚することになる。詩人は彼女の裏切りに怒ったり、泣いたり、嫉妬したり、罵ったりと...惨めに終わる。

このよくあるような失恋の物語が、最初は明るく、やがて陰りが出てきて、どんどん暗く深みにはまっていくような曲想で描かれている。
歌だけではなく、ピアノ伴奏も独奏曲のように強く自己主張している。


ボクは20代の頃に「詩人の恋」にハマった。自分自身の失恋の思いを重ね合わせて、この曲に浸っていて涙していた。
今でもいい曲だと思って聴いているが、もうあの頃のようにこの曲を聴くことはできない。ほろ苦い青春の音楽である。

ボクは第1曲「美しい5月」が、甘美ななかに不安を湛えた曲想でとくに好きである。出だしから不安げなピアノで始まる。歌っている内容は片山敏彦の訳詩が文語調で格調高い。


    いと麗しき五月

  なべての莟(つぼみ)、花とひらく
  いと麗しき五月の頃
  恋はひらきぬ
  わがこころに。

  諸鳥(もろどり)のさえずり歌う
  いとも麗しき五月の頃
  われうち開けぬ、かの人に
  わが憧れを、慕う思いを。

  「ハイネ詩集」片山敏彦訳(新潮文庫)より引用


しかし、シャルル・パンゼラ(バリトン)のLPについていた対訳のほうが、よりストレートでわかりやすい。


    美しい五月に
  
  美しい五月になって
  すべての蕾がひらくときに、
  私の胸にも
  恋がもえ出た。

  美しい五月になって
  すべての鳥がうたうときに、
  私の胸にもえる思いを
  あのひとにうちあけた。

  フォーレ「優しい歌」/シューマン「詩人の恋」
  シャルル・パンゼラ(バリトン)
  のLPより 西野茂雄 訳(東芝EMI株式会社)



ボクが20代の頃に聴いていた音源は先に記事にも書いたスイス人(フランス系)バリトン歌手シャルル・パンゼラの1935~36年録音のSP復刻盤LPである。


 フォーレ「優しい歌」/シューマン「詩人の恋」
 シャルル・パンゼラ(バリトン)
 マドレーヌ・パンゼラ・バイヨ(ピアノ)、アルフレッド・コルトー(ピアノ)


CDではドイツのバリトン歌手ヘルマン・プライで聴いている。


 シューマン:歌曲集「詩人の恋」/歌曲集「リーダークライス」  ヘルマン・プライ(バリトン)、レナード・ホカンソン(ピアノ) 

ヘルマン・プライは来日公演でシューベルト歌曲集「冬の旅」を聴きに行ったことがあった。青年のような甘く若々しい声で、しかも底力のあるバリトンに魅了された。

「詩人の恋」もプライは甘く切なくて、しかもゲルマン的な厳格さも持ち合わせている。しかしパンゼラには、ほわっと優しく柔らかいバリトンで幽玄の世界に誘われるような魅力がある。


YouTube画像ではプライで全曲を聴くことができる。

シューマン:歌曲集「詩人の恋」プライ(Br)&ホカンソン(pf)


1/4 第1曲~第6曲


2/4 第7曲~第11曲


3/4 第12曲~第14曲


4/4 第15曲、第16曲


パンゼラの「詩人の恋」はYouTubeにはアップされていなかったが、「クラシックmp3無料ダウンロード著作権切れ歴史的録音フリー素材の視聴、試聴」のサイトからmp3ファイルをダウンロードして聴くことができる。

YouTubeではパンゼラはフランス歌曲ばかりアップされている。そのなかでもボクのいちばん好きなフォーレ「月の光」で、とりあえずパンゼラの歌声を聴くことができる。


フォーレ「月の光」
シャルル・パンゼラ(バリトン)、マドレーヌ・パンゼラ・バイヨ(ピアノ)
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Sophie Milman : Make Someone Happy [ジャズ]

「美人女性ジャズヴォーカリストシリーズ第3弾!」というわけでもないが、先週の阪神尼崎の仕事帰りに梅田のタワレコで、ソフィー・ミルマンの2ndアルバム"Make Someone Happy"を買ってしまった。

ソフィー・ミルマンは1stアルバム"Sophie Milman"も愛聴している。

1stアルバムも美ジャケCDであるが「ジャケ買い」ではなくて、妻がネットの試聴で気に入ったので昨年Amazonで買ったCDである。

ボクはどちらかといと前に記事にも書いたヒラリー・コールの澄んだ美声のほうが好きなのであるが、妻に言わせるとパンチや個性に乏しいらしい。ハスキーだったり、しわがれていて、けっして美声でなくても、むしろインパクトがあってアクが強いくらいのヴォーカルを妻は好んでいる。
だから妻がAmazonの試聴を聴きまくって、女性ジャズヴォーカルではダイアナ・クラールとソフィー・ミルマン、男性ジャズヴォーカルではジェイミー・カラムを見つけてきてCDを聴いている。
ボクはダイアナ・クラールはかなりハスキーながらも大人の女の色気や癒しが感じられて心地よいが、あまり上手いヴォーカルだとは思わない。

その点、ソフィー・ミルマンはダイアナ・クラールほどはハスキーではなく、パワフルで上手い、聴き応えのあるヴォーカルである。

1stアルバムがよかったのでもう1枚聴きたいと思った。店頭で試聴はせずに、ジャケット写真の色っぽい2ndアルバムか、キュートな3rdアルバム"Take Love Easy"か迷った挙句、色っぽいほうを安直に選んでしまった。

1stアルバムは名曲がたくさんあって、イージーリスニング的にも聴きやすいアルバムであった。
2ndアルバムは、ボクの聴き覚えのある曲は1曲もなく、よりジャズ色の強い通好みのアルバムだと思った。聴いていて最初はちょっと敷居が高い気がしたが、聴き慣れてくると味わい深いアルバムだと思った。



  ソフィー・ミルマン:メイク・サムワン・ハッピー
   1. ピープル・ウィル・セイ・ウイアー・イン・ラヴ
   2. サムシング・イン・ジ・エアー・ビトウィーン・
   3. ロケット・ラヴ
   4. ソー・ロング・ユー・フール
   5. マッチメイカー、マッチメイカー
   6. ライク・サムワン・イン・ラヴ
   7. メイク・サムワン・ハッピー
   8. ビーイング・グリーン
   9. レスト(ステイ)
   10. フィーヴァー
   11. アンダン
   12. 春の如く
   13. エリ、エリ(カエサレアへの道)
   14. ステイ(イングリッシュ・ヴァージョン)
   15. セイヴ・ユア・ラヴ・フォ・ミー


ソフィー・ミルマンはユダヤ系ロシア人で、幼少の頃にイスラエルに移って音楽を始めジャズに親しんできた。さらに政情不安から逃れてカナダに移住してきた。若いのに苦労したようだ。
1stアルバムではロシア語やフランス語の歌唱を聴かせていた。
2ndアルバムではフランス語の歌唱を聴かせるほか、ボサノバ調、サンバ調の曲や、ユダヤ的な曲も歌っている。


ボクはスティービー・ワンダー作「ロケット・ラブ」がとくに気に入った。
YouTubeでは、モントリオール・ジャズフェスティヴァルのライヴがアップされていて、CD以上に「凄み」のある歌を聴かせている。


ソフィー・ミルマン「ロケット・ラブ」"ROCKET LOVE"

リチャード・ロジャース&オスカー・ハマースタインⅡのミュージカルナンバー「春の如く」では、サンバ調のアレンジが面白い。
ちなみに、原曲のイメージ・・・エラ・フィッツジェラルドのしっとりとした歌唱と比べるとまったく別の曲になっている。


ソフィー・ミルマン「春の如く」"IT MIGHT AS WELL BE SPRING"


エラ・フィッツジェラルド「春の如く」"IT MIGHT AS WELL BE SPRING"
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